2016/10/06
【海外ミステリ】ニコラス・ブレイク作品ご紹介
いつの間にか秋です。昼間はまだ暑い日もありますが、夜はすっかり過ごしやすくなりました。
まだ暑いつもりで布団をかけずに寝て風邪を引きつつ、本日はミステリコーナーより入荷がありましたニコラス・ブレイク作品とその周辺のご案内です。
ニコラス・ブレイクは英国推理小説界で数々の名作長篇が誕生した黄金時代の只中、1935年に『証拠の問題』でデビューしました。活動時期が世界大戦の時期にかかる作家は日本での紹介が遅れがちで、知られる機会を逸したまま不遇をかこった作家が多かったのですが、ブレイクは例外的に日本での知名度が当時から高い作家でした。
ニコラス・ブレイクの本名はセシル・デイ=ルイス。オックスフォード大学の詩学教授にしてイギリス詩人の最高栄誉である桂冠詩人にも任じられた人物です。同時代にはマイクル・イネス、ナイオ・マーシュ、マージェリー・アリンガムなどがおり、彼らとともにイギリス“新本格派”と呼ばれることもあります。
その作品は、同じく大学教授にして推理作家であったマイクル・イネスの作品が喜劇的風合いがあることと比して悲劇的と評され、人物造形と心理描写に重きをおいた作風で知られています。
特徴として、専門である詩や文学の引用など古典への深い造詣を盛り込み、作品のアクセントとしている点が挙げられます。
折しも、物語の背景や人物をより掘り下げた作品が求められていた時代にあって、ブレイクの登場は好評を持って迎えられました。
ニコラス・ブレイクは探偵小説論「なぜまた探偵小説が?」を著した際に、ホームズから時代が下るにつれ、探偵の人物造形がより無個性になっていく傾向に着目し
私自身は、一枚の吸取紙のように目立たないが、被疑者の反応を吸いとってしまうといったタイプの探偵に興味を覚える。つまり、犯罪のあらゆる特徴を映し出す奥ゆきのない鏡のような、あるいはまったく写真機のような眼をもつ探偵である。
ニコラス・ブレイク「なぜまた探偵小説が?」(H・ヘイクラフト編 鈴木幸夫訳編『推理小説の美学』研究社 1974年 p277)
自らの志向する探偵像をこのように語っています。
それが反映されているであろうブレイクの生んだシリーズ探偵ナイジェル・ストレンジウェイズは確かに、強烈な個性でぐいぐいと物語を牽引していくタイプではなく、あくまでアマチュア探偵の立場で事件を映す鏡のような存在として振る舞っている印象があります。
ストレンジウェイズの推理手法は、人物の振る舞いなどから心理を読み解き事件の真相を導くという独特のものです。副警視総監を叔父に持ち、警察の捜査に協力することの多い彼の推理は、物証を重視する警察捜査とはある種対照的なものとして描かれています。
さて、本日はそんなブレイクの作品の中からいくつかをピックアップしてご紹介。

『野獣死すべし』ハヤカワ・ポケット・ミステリ115 昭和31年3版
ブレイクの代表作としてまず名が挙がる本作は、展開の意外性、トリック、探偵ストレンジウェイズの魅力が高い密度で詰まった一作です。殺人を企図する犯人の視点から始まり、その犯行計画が予想外の事態で狂い…という、倒叙ミステリ的な導入から本格推理に変化する物語は、犯人と探偵の視点、心理を上手く作品に織り込んでいます。この物語が迎える結末と、結びの印象的な一文に込められた探偵ストレンジウェイズと作家ブレイクの美学が印象的な作品です。
『メリー・ウィドウの航海』ハヤカワ・ポケット・ミステリ558 昭和35年発行
豪華客船での事件という古典を思わせる舞台とトリックというブレイクの作品の中でもひときわ派手な印象のある作品です。一同を集めての謎解きの場面などもあり、クリスティ的という感想を持つ人も多いようです。『野獣死すべし』とならびブレイクの作品の中でも人気の高い作品です。

『死のとがめ』ハヤカワ・ポケット・ミステリ756 昭和38年初版
慈悲深い人格者として知られた医師が失踪した数日後に無残な姿となってテームズ河で発見された。失踪の前日に晩餐に招かれていたストレンジウェイズは、この事件の調査に乗り出すが…
ブレイクの人間心理への関心が強く反映された1作です。ブレイクは後期になるにつれ、人間の心理を描くことに重点を置いた犯罪小説の傾向を深めていくのですが、本作もその影響からかトリックや謎解きよりも人物の振る舞いやその源泉である心理に重心を据えているように感じます。
こちらは現在のところHPB版のみの刊行となっております。

『殺しにいたるメモ』原書房 1998年初版
ストレンジウェイズの戦時中の戦意昂揚省時代の事件。ドイツが降伏しヨーロッパ戦線が終決した時分、戦死したと思われていた同僚の思いがけない帰還を祝っている最中、ひとりの女性職員が突然咳き込み倒れそのままこと切れた。ストレンジウェイズは即座に知り合いの刑事に電話を入れ、誰もここを離れないようにと告げる。ドイツから帰国した同僚が戦利品として披露したばかりの毒入りのカプセルがいつの間にか消えていたことに彼は気づいていたのだ…
ちなみに戦意昂揚省は架空の省で、実際にはブレイクが戦時中に勤めた情報省での経験を反映してのもののようです。
本格ものに求められるフェアさをクリアしつつ、最後まで緊張感ある展開が続くシリーズ中でも屈指の一作です。

当店では他にもハヤカワ・ミステリ文庫で刊行されている5冊セットと、こちらの4作がバラで店頭にございます。
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