神保町の古書店 @ワンダーのブログ
神田神保町の古書店、アットワンダーです。SF・ミステリ・映画関連品ほか、買取歓迎! 古書探求をお楽しみの後は、2階に併設のブックカフェ二十世紀で珈琲をどうぞ。
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夏も本番で、どこに居るのかコンクリートだらけの神保町店舗周辺にも蝉の声が高らかに響いております。
しばらく間が空いてしまいましたが、本日は棚整理の影響で妙な充実を見せる外本棚という変わったところからご紹介。

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小栗虫太郎『海象に舌なきや 其の他』雄鶏社 昭和22年(1947年)発

表題作は戦時中のマレー半島を舞台に、華僑の秘密結社「天地会」の顔役の正体を巡る事件の物語です。
1942年に発表された『海峡天地会』を改題したものになります。
小栗は1941年に陸軍報道班員としてマレー半島に行っており、リアルタイムのあの時代の東南アジアの空気感を感じさせる本作に、その時の経験が活かされています。
熱帯の夜を各国の情報機関、秘密組織が跋扈していた南国というイメージには妖しい魅力が有ります。
本作中に登場する「天地会」は作中でも触れられていますが、現在では「三合会」の方が知られた名前でしょうか?



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バークンヘッド著 佐藤総一朗訳『二〇三〇年の世界』先進社 昭和5年発行

個人的な今回の一押しは外本棚の中でも異色なこちらです。1930年にイギリスの貴族バークンヘッド卿が著した2030年の未来に向けての政治、軍事、経済、文化に関する予想と提言をまとめたものとなっています。
著者があまり馴染みのない名前ですが、非貴族の出身ながら弁護士、国会議員を経て、大法官を務め上げ一代で伯爵位にまで上り詰めた相当に切れる人物だったようです。
その華々しい経歴の一つに1924年のパリオリンピックで英国選手団団長というものがあります。映画ファンの方にはピンと来るかも知れません。バークンヘッド卿とは『炎のランナー』で、ナイジェル・ダヴェンポートが演じた英国オリンピック選手団の団長バーケンヘッド卿その人です。

さて、本作の面白さは分かりやすく言えば答え合わせです。大英帝国の栄光の残照も未だ色濃い頃合いに、その時代きっての知的エスタブリッシュメントであった人物が予想した未来、2030年がそろそろ私達の目にも見えそうな頃合いです。
実際に読んでみますと、現代の科学技術の進歩著しい進歩に追いつけなかった部分や、英国貴族の矜持由来の視野の制限も多々見受けられますが、世界情勢や政治、軍事についての見識は流石というべきでしょうか。
当時から中国の台頭を予見し、またそれが経済的脅威に重きをおいた視点で語られています。ただそれにはフランスにおけるナポレオンのような強力な指導者の出現を待つ必要があると前提を置いたのも、歴史をなぞるように言い当てています。

“二〇三〇年の交には、あらゆる市場に於いて、支那の競争が甚だしく急を告げて居るでせう。支那の売込手は、世界の凡ての村へ、その商品を押し付けて居りませう。”p247

中国の経済発展が当時の中心産業であった製造業への重大な脅威となることを認め、その上で、イギリスの視点にとどまらず、ヨーロッパをひとつの市場単位として統一することで対抗すべきというビジョンを提示しています。関税同盟のような経済共同体を構築し、

“大陸に於ける一切の関税障壁を破壊し、そうして一方、支那の物質に対する山の如き汎ヨーロッパ関税障壁を隆起せしむるでせう。”p247

さらに、この経済同盟はあくまで一段階に過ぎず、21世紀においては安全保障も含めた「ヨーロッパ諸国間における連盟」は現実のものであろうと見抜いていました。
しかし、上の共同体による関税障壁は、EUの成立よりも先に、世界恐慌後の第二次世界大戦の引き金のひとつともなったブロック経済として登場したのは歴史の皮肉にも思えます。

実際、バーケンヘッド卿はかなり進歩的な知識人であり、一次と二次の大戦の谷間のこの時期において合理的に世界情勢を見ていた人物だったようです。各国経済の貿易依存度が高まっていたこの時代、経済的合理性から戦争は起きないと考えていた多くのヨーロッパの政治家、知識人の意識の一端を垣間見るようで興味深いものがあります。
バーケンヘッド卿は優れた知性を発揮していくつかの未来を見事に見通していましたが、世界恐慌から始まる歴史の荒波によって、先に挙げた経済共同体をはじめ幾つかの予想で、皮肉な味わいになってしまったものも見受けられます。
例えば軍事、科学の項でバーケンヘッド卿は航空機について辛口の評価をしており、航空機のブレイクスルーに待たれる技術革新のひとつとしてロケット技術に触れています。

尚ほ残る可能性は、将来の航空機が、恰も昨年六月四日、イートンにおいて打ち揚げられた狼烟の如く、反動の単純なる原理によって推進せらるゝであるといふことであります。この形式の推進に対しては、最近ドイツに於いて、多大なる興味が寄せられ、そこでは、特別に準備せられた鉄道線路の上を走る『狼烟車』をも以ってする無数の実験が行はれました。p211

ドイツが興味を寄せていたこの技術は後の大戦でV-2ロケットとしてイギリスへの脅威となりました。

この本の中でも特にSF的なのが、産業の機械化による社会変化や女性の社会進出などについての部分でしょう。
機械化の結果、人々はより少ない労働で豊かさを享受できるようになるとして、最終的に労働時間は週14時間で後は余暇となるだろう(!)と記しています。
後14年ほど猶予がある現在、実際にどうなっているかは……諸氏ご存知のとおりです。
女性の社会進出においては、男女が平等の立場となるには胎外発生の普及が必要であると主張していますが、これは流石に21世紀の現在でも同意を得るのが難しいものでしょう。

全体としてみると、よくもあの時代にこれだけ先のことまで考えていたものだと驚かされます。
特徴的なのは、その将来の状況に対して何をするべきかという点にまで言及している点でしょう。
これは政治の世界に身をおいていた人物ならでは視点なのかもしれません。
『二〇三〇年の世界』は当時の上流社会の空気感が伝わってくる歴史的な読み物としても興味の尽きない、今読んでなお考えるべきことの多い著作です。

予想外の面白さについつい長い紹介となってしまいましたが、現在外本棚には他にも珍しい本、お得な本が多数並んでおります。
もちろん、店内の商品も随時、品揃え更新されております。
神保町にお立ち寄りの際には、是非 @ワンダー へ!!
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